胃食道逆流症

長引く咳の原因として考えられる疾患は数多くありますが、見落とされやすく、それでいて結構多いのがこの胃食道逆流症です。
胃や食道といった消化器の疾患なのですが、胃腸症状がなく、咳だけが続くといったケースもあります。
咳喘息と症状が似ていて、咳喘息の治療をしていても治らなかった方が胃食道逆流症の治療に切り替えたら良くなったという例も少なくありません。

 

 胃食道逆流症とは

胃食道逆流はその名の通り、胃の内容物や胃酸が食道に逆流してくる状態です。ただし、健康な人でもこの逆流は生理現象として普通に起こっています。その逆流によって何らかの症状や障害が起こったときに胃食道逆流症といいます。
食道のいちばん上の部分は、肺につながっている気管の入口である咽頭と接しています。寝転んだり逆流が強かったりすると、この咽頭まで胃液や内容物が達してしまいます。胃はバリア機能があって強い酸などからも守られているのですが、咽頭にはそのバリア機能がありません。すると、咽頭や食道の粘膜に炎症が起きてしまい、胸焼けや呑酸、咳や嗄声(声がれ)といった症状がでてしまいます。
こういった症状を胃食道逆流症といいます。

 

 胃食道逆流症の特徴

胃食道逆流症は言うまでもなく消化器系の病気ですので、消化器系の症状の特徴もたくさんあります。しかし、症状の出現の仕方はというと、消化器系の症状だけ出る人、慢性の空咳や声がれの症状だけ出る人、消化器系の症状と一緒に出たり関連性を持って出る人など様々なので注意が必要です。

 主な特徴

胸焼けや胸痛がある
げっぷがよく出る
呑酸(口の中に酸っぱいような苦いような液がこみ上げる)がある
食べ物や飲み物などを飲み込みにくい
のどに違和感がある

 咳に関する特徴

胸部レントゲン検査で異常がない、3週間~8週間以上続く咳がある(数年におよぶこともある)
コンコンという乾いた咳(乾性咳嗽)がある
声がれ(嗄声)や咽頭の違和感がある
食後の1~2時間後に咳が悪化する
夜寝ているときや仰向けになったときに咳が悪化する
気管支喘息がある(関連性があり、併発しやすい)

 

 胃食道逆流症の診断

まずは問診ですが、症状が咳喘息と類似していて、咳喘息の治療をしていても効果がなく、実は胃食道逆流症による咳だったということもあるので注意が必要です。
また、もともと気管支喘息があって、胃食道逆流と影響しあっている場合もあります。それを踏まえて上記の特徴があるかどうかを問診しますので、自分で気が付いたことがあれば全て医師に伝えるようにすることが大切です。
問診する上で、逆流性食道炎を診断するために作られた世界共通の「QUEST問診票」に沿って診察を進めることもあります。

 QUEST問診票

過去1週間の症状について
1 胸焼けはどのくらいありましたか?
2 胃に入っているもの(胃液や食べ物)が喉や口のほうまで逆流したのはどのくらいありましたか?
3 上腹部中央の痛みはどのくらいありましたか?
4 吐き気はどのくらいありましたか?
5 胸焼けや逆流のために、よく眠れなかったことはどのくらいありましたか?
6 胸焼けや逆流のために医師から処方された以外の薬(市販の胃薬など)を服用したのはどのくらいありましたか?

上の1~6までの質問の回答で、0日=0点・1日=1点・2~3日=2点・4~7日=3点としてスコアをつけます。

 胃内視鏡検査

いわゆる胃カメラを口(鼻)から挿入して、食道の粘膜の状態を確認します。逆流性食道炎の診断には最も優れた検査とされます。

 PPIテスト

症状として胃食道逆流症が強く疑われるにもかかわらず、胃内視鏡検査で異常がみられない場合に行われる検査です。
逆流性食道炎の治療に使われるプロトンポンプ阻害薬(PPI)という飲み薬を1週間服用して、効果があるかを調べます。効果があれば、胃食道逆流症である可能性が高くなります。

 

 胃食道逆流症の治療

治療は逆流性食道炎の治療に準じて胃酸を抑える内服治療を行います。それとともに、逆流防止のための食生活の改善や生活習慣の改善を行います。内科的な治療を集中的に行っても改善しない場合は逆流防止手術もありますが、よほどのことがなければ、内科的な治療だけですみます。

 内服治療

胃酸を抑制する治療を行います。プロトンポンプ阻害薬(プロトンポンプインヒビター、PPI)と呼ばれるお薬や、ヒスタミンH₂受容体拮抗薬(H₂ブロッカー)と呼ばれるお薬が使われます。
PPIやH₂ブロッカーがまず使われるお薬で、これだけでも改善することが多いですが、改善されない場合は、食道の粘膜を保護するお薬や胃酸を中和するお薬、食道の運動を活発にするお薬などが併用される場合もあります。
胸焼けなどの症状については1週間ほどで治まってしまうこともありますが、咳の症状は2週間以上かかってしまうこともしばしばです。また、良くなったと思って内服をやめてしまうと再発することがあるので、必ず医師に指導された期間は守りましょう。

 食生活の改善

高脂肪な食品や、糖の多い食品は胃酸の分泌を促進してしまうので控えます。刺激の強い食品も同じです。
コーヒー、お茶、ミント、チョコレート、柑橘類などを控えるようにします。
また、食事の仕方ですが、食べ過ぎない、早食いをしない、夜の遅い時間(寝る前)の食事はしないなどとなります。

 生活習慣の改善

アルコールや煙草の禁止、不規則な生活の改善など。
また、肥満も逆流の危険因子ですので、太っている人はダイエットを。
あとは工夫になりますが、真横になると逆流しやすいので、寝るときに上半身を高くすることや、腹圧によっても逆流を促すので、体を締め付けるような洋服を着ない、などがあります。

 

 合併症の治療

上で胃食道逆流症の咳は咳喘息の症状と類似していると言いましたが、実は胃食道逆流症と咳喘息が両方とも起こっていることもあります。また、胃食道逆流症は気管支喘息とも合併することがあります。
これは、食道と気管支が接していることで密接な関係があるもので、逆流した胃液などが気管支に入って炎症を起こすという作用や、酷い咳によって圧がかかり、胃内容物の逆流を促がしてしまうという作用、両方考えられます。
ですので、どちらか一方の治療をしても、咳が改善しないこともあり得るのです。医師が併発に気が付くのが遅れないように、自分の症状を細かく伝えることも大切なことになります。

 

胃食道逆流症 

 

▲このページのトップへ