長引く咳の話し 

 咳について

誰にでも「咳」の経験はあるかと思いますが、その原因は様々です。ある調査では、診療所やクリニックにおいての初診時の受診理由の第1位は「咳」だということでした。ちなみに第2位は「発熱」、第3位は「鼻閉・鼻汁」でした。
それだけ「咳」に悩まされる人が多いということですが、この原因がまた様々で、呼吸器科のほとんどの疾患の主訴が「咳」なのです。この中には5日~10日もすればすっかり治ってしまうものから、数か月も治らないままだったり、命にかかわるような重大な病気のサインだったりもします。
では、この「咳」の原因になる病気はどんなものがあるのでしょうか?

 

 咳の見極め~急性か慢性か

咳を主訴とする患者さんの場合で、まず重要なのは咳の「経過の長さ」です。急性なのか慢性的に経過するものなのかを見極めると、原因となる病気がだいぶ絞られてきます。
急性というのは、だいたい数日から1週間ほどの経過のことを指します。それに対して、慢性というのは3週間以上続く咳のことを指します。

 

急性の咳

例えば、2、3日前から咳と鼻水が出てなんかだるい・・・
こんな症状の経過の時には、どんな疾患を想定するでしょうか?
お分かりでしょう。「風邪」ですね。一般にいう風邪というのは急性上気道炎や風邪症候群などのことです。
急性に発症した「咳」の原因で最も多いのは「風邪」です。(急性気管支炎や急性副鼻腔炎も含めます)

ただし、急性の経過の咳でも、重篤な病気の場合もあります。

   感染性疾患 ・・・ 肺炎や胸膜炎
   循環器疾患 ・・・ うっ血性心不全や肺塞栓(肺梗塞)
   その他 ・・・ 誤嚥や胃食道逆流症など

こういった重大な病気が隠されている場合も考えられます。
これらの病気も初期だったり高齢者だったりすると、風邪と区別がつかないことがあります。
咳のほかに、鼻水やくしゃみ・発熱のような感冒症状があったり、家族(周囲)に同様の症状があるなど、明らかな風邪症候群と診断できなければ胸部のレントゲン検査や血液検査などを受けなければなりません。

 

慢性の咳~①胸部レントゲンで診断が可能な病気

咳が3週間以上続いている場合で、とくに発熱や鼻の症状がない場合には、様々な呼吸器疾患の可能性が出てきます。
まず胸部のレントゲン検査をします。

胸部レントゲンで診断がつく病気で多いのは、
肺炎、気管支拡張症、肺気腫(COPD)、結核、間質性肺疾患、肺癌などです。
その診断に応じて次のステップとして、肺機能検査や胸部CT、喀痰検査、気管支鏡検査などが行われます。

 

慢性の咳~②胸部レントゲンで異常がみられない病気

レントゲンで異常がない、慢性的な(3週間以上続く)咳の場合に考えられる疾患は以下のものがあります。

咳喘息、感染後咳嗽、アトピー咳嗽、後鼻漏、百日咳、胃食道逆流症、薬剤性、慢性気管支炎など

これらは胸部レントゲンでは診断がつきません。
咳喘息・感染後咳嗽・アトピー咳嗽などはアレルギー疾患系で、後鼻漏と百日咳は感染によるものです。
胃食道逆流症は気付かれにくい疾患ですが、胸焼けや胸痛、咽喉頭の違和感、食後に悪化する咳、といった特徴があります。
薬剤性の咳では高血圧の治療や腎臓などの保護で使われるACE阻害薬が有名です。この薬剤が原因の咳は、薬を飲むのを中止すれば、すぐに咳も治まります。

 

 「空咳(乾性咳嗽)」か「痰を伴う咳(湿性咳嗽)」か?

3週間を超えるようなしつこい咳を「空咳」か「痰を伴う」かで分けてみると、原因となる疾患もまた絞られることがあります。
乾性咳嗽は軽い感じの「コンコン」というような表現をされ、痰を伴わないものをいいます。それに対して湿性咳嗽は痰が絡んだ「ゴホンゴホン」といった湿った感じの咳と表現されます。

乾性咳嗽は、咽頭や気管の機械的・科学的刺激によって起こります。
湿性咳嗽は、気管・気管支・肺胞からの分泌物が排泄されるときに起こります。

 

 空咳(乾性咳嗽)

2~3週間以上続く空咳の場合、以下のような病気が考えられます。呼吸器疾患以外にも注意しなければなりません。

咳喘息・アトピー咳嗽・間質性肺炎・気管支結核・肺結核・縦隔腫瘍・肺癌など
その他呼吸器以外では、胃食道逆流症・後鼻漏・薬剤性・心因性など

 

 湿った咳(湿性咳嗽)

2~3週間以上続く、痰を伴った湿性咳嗽の場合、以下のような病気が考えられます。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)・副鼻腔気管支症候群・気管支喘息・気管支拡張症・肺結核・慢性気管支炎・肺癌 など

副鼻腔気管支症候群は、慢性副鼻腔炎に気管支炎、びまん性汎細気管支炎、あるいは気管支拡張症が合併した病態です。
副鼻腔炎があると、鼻汁がのどに降りて気管支に入り、気管支炎をおこしたり、口呼吸が多くなり、乾いた空気などが直接吸引されて、気管支炎を誘発してしまいます。

 

 咳が出る原因疾患

咳の分類咳の経過(期間)による分類
急性の咳(2~3週以内) 慢性の咳(2~3週以上)
 風邪症候群  咳喘息 関連リンク
 急性肺炎  後鼻漏症候群
 急性気管支炎  アトピー咳嗽
 胸膜炎  感染後咳嗽
 うっ血性心不全  百日咳
 肺塞栓(肺梗塞)  肺炎
 誤嚥  気管支拡張症
 肺気腫(COPD)
 副鼻腔気管支症候群
   結核
   間質性肺炎
   胃食道逆流症
   薬剤性(ACE阻害剤)
   慢性気管支炎
   肺癌

 

咳の分類咳の質による分類
湿性咳嗽(痰を伴う) 乾性咳嗽(痰を伴わない)
急性  咳喘息 関連リンク
 風邪症候群  肺気腫(COPD)
 気管支炎  アトピー咳嗽
 副鼻腔炎  百日咳
 胸膜炎  間質性肺炎
   気管支結核
慢性  縦隔腫瘍
 肺気腫(COPD)  肺癌
 肺結核  胃食道逆流症
 気管支拡張症  薬剤性(ACE阻害剤)
 副鼻腔気管支症候群  心因性
 気管支喘息
 慢性気管支肺炎  
 肺癌  

 

 

 病院で診察してもらおう

以上のように、「咳」といえば誰でも経験のある身近な症状のようにも思えますが、実に様々な疾患の表現型なのです。それこそ、咳止め薬を飲まなくても数日で治ってしまうよなものから、命にかかわる病気、あるいは、呼吸器疾患以外の病気が隠れている場合もあります。
特に3週間たっても治らない長引く咳の場合は、そのまま放っておいても自力では治せない病気や重大な病気かもしれません。また、どんな病気でも早期発見早期治療が原則です。カゼかな?と思っても、医師に診察してもらって、適切な治療を受けましょう。

 

 

 

愛和クリニック 咳について 

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